「ネクスト・ソサエティ」(P.F.ドラッカー2002年著)の歴史

  ドラッカー自身1度だけ、「 経済が変わり、新しい経済が生まれたと思ったときがあった。1929年に、アメリカの証券会社のヨーロッパ本部で新米社員として働いていたときだった。」

「 直接の上司だった主任エコノミストは、ウォールストリ−トの好況は永久に続くと信じて疑わなかった。『投資』と題する立派な本を書き、アメリカ企業への株式投資が絶対確実な利殖の道であると断言した。」 最若年のドラッカーは、「 この主任エコノミストの助手に取り立てられ、その本の校正と索引づくりを任された。」

 「 本が発行された翌々日、ニューヨークの株式市場が崩壊し、数日後には書店から本が姿を消した。」

 ドラッカーの「 職も失われた。」

 「 それから70年近くたった1990年代の半ば、ニューエコノミーの到来が論じられ、株式市場の活況は永久に続くものとされた。どこかで見た景色だった」とドラッカーはいっている。

 「 あのころ言われていたのは、恒久平和ならぬ恒久繁栄だった。だが、論理、論法、予測は同じだった」と。

  ニューエコノミーが論じられはじめた90年代の半ば、ドラッカーは、「 急激に変化しつつあるのは、経済ではなく社会のほうであることに気づいた。」


 「 IT革命はその要因の1つにすぎなかった。人口構造の変化、特に出生率の低下とそれにともなう若年人口の減少が大きな要因だった。IT革命は、一世紀を越えて続いてきた流れの1つの頂点にすぎなかったが、若年人口の減少は、それまでの長い流れの逆転であり、前例のないものだった。」

 「 逆転は他にもあった。富と雇用の生み手としての製造業の地位の変化だった。製造業は、政治的には力を増大させるかもしれない。だが、もはや唯一の主役ではない。さらにもう一つ前例のないこととして労働力の多様化があった。」